20年前に化粧品の開発をスタートし、5年前に「OSAJI」を立ち上げた茂田正和が今年、書籍『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』を発売することになりました。お客様や、ものづくりに対して真摯に向き合ってきたこれまでの年月を振り返りながら、茂田がいま、この書籍を通じてお伝えたいことを語ります。
今回の書籍のタイトルには42歳という年齢が出てきますが、お伝えしているスキンケア理論は、あらゆる年代の肌に適した“接続可能なスキンケア”です。書籍の中の「はじめに」や「おわりに」と少し重なるお話ですが、僕にとっては“誰かのために何かをつくる”がクリエーションの原動力です。
化粧品開発者への道を歩み出したきっかけも、どんな化粧品を使っても肌が荒れるようになってしまった母のためでした。ゆえに、僕がつくってきたものは『OSAJI』も含めて“敏感肌向け”と捉えられることが多いと思います。けれども、この本を書き終えたときにあらためて思ったのは「肌が敏感であろうと、そうでなかろうと、健やかで美しい肌を維持するためにやるべきこと、やらないほうがいいことというのは、さして変わらない」ということでした。
タイトルにある42歳というのは、東洋医学の原点といわれる医学書にある「女性の体の変化が7の倍数で顕在化していく」という論説に紐づいていて、そういった意味では28歳、35歳も肌にとっては重要なターニングポイントです。ただ、女性ホルモンが急激に減り始める42歳は、20代や30代と同じスキンケアでは立ちいかなくなる方が非常に多いです。特に皮脂量の変化は明確で、洗顔や保湿のバランスを変える必要性が出てきます。とはいえ、皮膚科学に基づいた本質的なスキンケアの考え方は年齢も肌タイプも関係なく共通なのです。
この書籍では、化粧品だけでは解決が難しいシミやほうれい線、たるみなどに対して、食からのサポートや表情筋へのアプローチなど、ホリスティックな指南をまとめています。というのも、シミについては基底層のメラノサイトが関与しており、肌のハリは真皮層の問題であり、いずれも食べものやサプリメントによって内側からケアすることの方が、肌を痛めず、必要なものをより直接的に届けることが可能だからです。
スキンケアメーカーとして考えれば、アイテムをどんどん増やして化粧品だけでの対策を提案することになるのかもしれません。ただ、年齢とともに変化するホルモンバランスが絡んで発生するお悩みは、なおさら化粧品のみでの解決が不可能なケースと僕は考えています。もちろん、肌のゆらぎなどセンシティブさと無縁な10〜20代の肌であれば、香りや清涼感などを楽しみながら化粧品でスキンケアをするだけで十分というケースもあります。化粧品でできることを決して過信することなく、一方で化粧品にしかできない本質的な肌への作用や、使うことの楽しみを見つめていきたいと思っています。
『OSAJI』というブランドの構想時、7年ほど前に行ったコンセプトワークで“スキンケアライフタイルブランド”というキーワードが出ました。当時はやや漠然と捉えていたのですが、その後のメイク、フレグランス、インセンスの発売、家の香りをつくることができる調香専門店『kako』への反響の大きさや、五感を通じてニュートラルな自分へと調律する体験を提供するレストラン併設の『enso』オープンと、思えば肌を取り巻くさまざまな要素が参入して現在に至ります。
もちろん、香りで自律神経にアプローチしてメンタルを整えるにしても、肌にいいものを食べてもらうにしても、その1回で何かが変わるわけではなくて。重要なのは、それらの体験からのさまざまな“気づき”が生活に溶け込み、次第にライフスタイルが変化していくことです。“気づき”というのは、押し付けがましくない“education=教育(学び)”だと僕は捉えています。
今回の書籍では「自分にとっての心地よいを大切にする」が全体を貫くテーマとして浮かび上がってきます。“気づき”とは、まさに自分にとっての心地よさを増やして暮らしを構築していくための足がかりです。
今後も「お客様に本当に必要なものは何か」「お客様と真に信頼関係を築くということはどういうことか」を自問していきます。この書籍の制作もそうでしたが、少し説明に時間がかかっても社会がよくなっていくものづくりをするために、共感の作業をやり続けていくことも大切に。そして“気づき”をもたらすクリエーションを通じて、educationの先にある上質な文化をみなさんと紡いでいきたいと思います。
-所属団体-
日本皮膚科学会 正会員
日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会所属
日本化粧品技術者会所属
日本香粧品学会所属
ケアメイク協会副理事
2002年より化粧品開発に従事するとともに、東北大学皮膚科 相場節也教授を師事し、皮膚科学を学ぶ。多くの美容関係者とともにセミナーやワークショップを開催。ファッション雑誌等でも美容に関わる情報を執筆する。2013年には「子供を紫外線から守る会」を発足。現在は化粧品開発業務とあわせ、美容関係従事者への皮膚科学、化粧品学分野の講師を務める。以降、肌トラブルに悩むさまざまな方々に寄り添ったスキンケアブランドや専門店を開発し、世に送り出している。