
6代目蔵元 土田祐士
杜氏 星野元希
茂田正和
〈前編 / 全3回〉
茂田
飲食業の友人に贈りものをするときに、土田酒造さんのお酒を持って行くと必ず喜ばれるんですよ。僕の中では、こだわりを持っている料理店やおもしろい酒屋さんに限って、土田さんのお酒を扱っている印象があります。
土田
うれしいです。選んでいただけて光栄です。
茂田
贅沢な使い方ですが『シン・ツチダ』は料理酒としても最高ですね。一般的なお酒と違ってすごく旨味があるから。僕は冬の間中、おでんを絶やさないようにしているんですけど、おでんを仕込むときにも使わせてもらっています。
土田
へえ〜、それはすごい!ありがとうございます。
茂田
異常に料理が好きなもので(笑)。おでんの出汁は牛すじなのですが、お肉との相性も抜群ですね。
土田
『シン・ツチダ』の場合、旨味成分のアミノ酸を多く含んでいるのでワイルドな感じもあり、お肉と合うんだと思います。ただ、一般的な日本酒づくりにおいてアミノ酸は雑味といわれ、あまり良しとされていません。このお酒は完全無添加でつくっているので毎回味も違うんですよ。
茂田
土田さんのお酒って、ワイルドなほどおいしいですよね。毎回味が違うということは、例えばワインのように、同じ銘柄でも味が異なる“ヴィンテージ”と捉えることもできる。飲む側にとっても「今年の『シン・ツチダ』はどんな味なんだろう」という感じで、非常に楽しみでもあります。
土田
そういっていただけると本当にうれしいです。雑味を少なくするためには米を磨いて余分なタンパク質をきれいに削ぎ落とすんですが、そうすると米の味がどんどん失われていき、みんな似通った味になってしまいます。だから我々は、米をなるべく磨かない酒づくりをしています。
茂田
いわゆるベーシックな日本酒のつくり方とは真逆なんですね。昔からそういうつくり方だったんですか?
土田
いまのような昔ながらのつくり方に完全に変えたのは、5年前からですね。添加物を入れない酒づくりをはじめて行ったのが9年前で、「昔の人ってやっぱりすごいなあ、おもしろいなぁ」と思いました。でも江戸時代はみんなこの方法だったわけで。米を磨く技術もなければ添加物も入れられないからこそ、蔵にいる菌を活かしていたんですよね。はじめは今のつくり方にすべて移行する考えはなく、自分逹の技術のために少しずつ続けていこうという認識だったのですが、人口減少などの影響で、数年前から元々つくっていたお酒が売れないという問題が起きていました。そこから「このままではダメだ」と本格的に考えるようになり、試行錯誤しながら今に至ります。
茂田
そういった経緯があったんですね。そもそも米を磨いて日本酒をつくるようになったのって、いつからなんでしょう?僕は“吟醸酒ブーム”というものに高度経済成長期ならではの贅沢というか、ものの捉え方を感じます。
土田
おっしゃるように吟醸酒ブームの頃からです。昔は米を磨くというつくり方に憧れがあったのかもしれませんが、そこに捉われすぎてしまった結果、味の多様性が失われてしまったのが一番の問題です。日本酒を仕込むときは一般的に酒米を使うのですが、うちでは地元・群馬の食用米を使っています。ごはんとして食べるお米と同じようにコイン精米所で精米したものを、農家さんに持ってきてもらうということもあります。
茂田
今お聞きしたようなお酒のつくり方って、いい意味で時代の制約条件にハマっていますよね。地域性のアドバンテージでもあるというか。僕としては、これからのクリエイティブが面白くなっていくのって、この制約条件をどう取り入れるかだと思っているんです。時代の背景にある制約条件をちゃんと反映することで、その時代の伝統になっていく。土田さんのお酒ってすごくそこを感じるから、感動するんです。
土田
あぁ、同感です。そして、ありがとうございます。米を磨かないことで、結果的にエネルギーの削減やものを捨てないことに繋がったのはたまたまですが、最終的には“ものづくり”なので「俺の癖を味わってくれ」と思うんですよ。均一性を取ることは量産するためには大事なんですけど、ほかに同じものがあるんだったら自分がつくる必要ないじゃないですか。業界としてはこれまでこの“癖”を抑えてきたわけなんですけど、その価値を変えたくて。そうしないと次世代の担い手がいなくなってしまうという危機感もあります。
茂田
そうですよね。後は個性だけでも、つくり方が素晴らしいというだけでもダメですよね。おいしくないと続かないし、根付いていかない。“おいしい・おもしろい・個性がある”この3つの条件が、今後重要になってくるはずです。
土田
おいしいことが一番大事。オーガニックの食べものでもそうですけど、そこは大前提ですね。個性の部分で次に加えるとしたら、土地の記憶というか、土地を包含したものが必要になってくるのだろうと思います。そうしないとつくる場所はどこでもよくなってしまう。土地の米・土地の水・土地の菌というのは、まさにローカライズ。これからの酒づくりの新しいスタンダードになるんじゃないかなと。
(写真左から)
茂田正和 / OSAJIディレクター
2002年より化粧品開発に従事。無類の料理好きとしても知られ、肌を健やかに導く栄養学も踏まえたアプローチで、料理家とのコラボレーション経験も。
星野元希 / 杜氏
東京都杉並区出身。東京バイオテクノロジー専門学校を卒業後、新卒で土田酒造に入社。お酒造りの世界に入ったきっかけは、高校2年生だった。
土田祐士 / 土田酒造 6代目蔵元
コンピュータ総合学園HALを卒業後、カプコンに入社。その後、2003年に土田酒造に入社後、6代目蔵元となり、お酒造りのスタイルを大きく変えた。