
6代目蔵元 土田祐士
杜氏 星野元希
茂田正和
〈後編 / 全3回〉
茂田
個人的に、土田酒造さんの酒づくりにおける菌の考え方と、僕の化粧品づくりにおける皮膚科学上の菌の考え方がすごくシンクロしている気がするんです。菌の多様性にも通ずる部分があるというか。
土田
菌というと悪いイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれないけど、すべてがそうではないですからね。漬物をつくるときは、手で混ぜて常在菌でつくった方が良いとも言いますし。男性と女性でも菌が違うともいうし、面白いですよね。
茂田
そうですね。最近では、乳酸によって皮膚の菌組成も変わるというエビデンスも出ているそうなんです。乳酸を摂ると、汗から乳酸が皮膚表面にチャージされてpH値が変わるんですが、皮膚にとって良い菌は弱酸性側で生きる菌なので、汗の乳酸が優位になると皮膚の状態は良くなるということなんですね。
土田
そうなんですか!いやぁ、勉強になります。
茂田
ヨーグルトやワインもそうですけど、やはり乳酸がキーワードなんです。土田さんのお酒って、乳酸の香りがしますよね。だからすごく肌にも良いんじゃないかと思って。乳酸にはメラニンの過剰生成を抑制してくれる働きもあるので、お酒をつくっている人の肌ってやっぱりきれいですよね。
土田
なるほど!弱酸性のものを皮膚に塗るのと体の中に取り入れるのとでは、どちらが良いんでしょうか?
茂田
もちろん塗っても良いんですが、自然の中での分解機能を経た汗とか、先ほどの話のように細胞内に乳酸が組み込まれることの方が、人の体にとってはより安全ですよね。
土田
確かに。それはそうですよね。
茂田
アトピーの例でいうと、皮膚の乳酸量が減って、というよりもpHがアルカリ側に傾いて、黄色ブドウ球菌が増えることで痒くなる現象が起こるんですね。根本の原因とはまた別の話ですけど、乳酸を摂って汗をかくことで菌の組成が変わるので、かゆくなる症状は緩和されるんじゃないかとは思います。
土田
乳酸菌を摂るんじゃなくて、乳酸なんですね。勘違いしている人も多い気がします。
茂田
それはありますよね。化粧品の場合、乳酸が入っていると塗ったときに刺激を感じてしまうので、成分としてはあまり入れられないのですが、汗の再吸収で角質細胞内に乳酸が組み込まれていくと、肌の菌バランスがすごく良くなるんです。外用すると刺激になるんだけど、内側から出てくる分には良いっていう。不思議ですよね。要するに、乳酸は塗るんじゃなくて飲めば良いんです(笑)。
(写真左から)
茂田正和 / OSAJIディレクター
2002年より化粧品開発に従事。無類の料理好きとしても知られ、肌を健やかに導く栄養学も踏まえたアプローチで、料理家とのコラボレーション経験も。
星野元希 / 杜氏
東京都杉並区出身。東京バイオテクノロジー専門学校を卒業後、新卒で土田酒造に入社。お酒造りの世界に入ったきっかけは、高校2年生だった。
土田祐士 / 土田酒造 6代目蔵元
コンピュータ総合学園HALを卒業後、カプコンに入社。その後、2003年に土田酒造に入社後、6代目蔵元となり、お酒造りのスタイルを大きく変えた。