
代表 関谷幸樹
茂田正和
〈前編〉
茂田
関谷さんのことを知ったのは、僕がクラフトジンの香りのプロジェクトに参加していたとき。僕のまわりには、蒸留酒であるジンをつくる人たちが結構いるんですけど、「蒸留器だったらとりあえず関谷さんに相談しよう」って人が多くて。何人かに「会った方がいいよ」と言われていたんですよね。そんなときに、共通の知人のギャラリーでばったり会ったんです。そこから意気投合して。
関谷
僕の方もいろいろな角度から「紹介したい人がいるんだよ」って言われていました(笑)。茂田さんも家業だけでなく新しい展開をされているじゃないですか。それがすごく興味深くて。非常に刺激も受けるし、おもしろいなと思っていたんですよね。
茂田
関谷さんが蒸留の世界に入ったのはどういうきっかけで?
関谷
〈リカシツ〉を始めたときに、アロマが好きな人たちにもアクセスしたいなと思っていたんです。過去に、ある展示会でお客様から「シンプルな家庭用の蒸留器が欲しい」と言われていたのがずっと記憶に残っていて。調べてみると、世の中にもまだそんなに出回っていないし、これは絶対に需要があるだろうなと。それで、向かいにある店舗の〈理科室蒸留所〉も含めて、家庭用蒸留器〈リカロマ〉をつくったことがきっかけですね。
茂田
アロマ好きの人たちは、できた蒸留水をどんなふうに使うんでしょう?
関谷
手づくりの化粧水やルームフレグランスが多いみたいですね。コロナ禍では一時、マスクスプレーに使う人もいました。
茂田
蒸留したものは、少し寝かせた方がいい香りになるんですよね。一週間ぐらい経ってくると最初よりも馴染んで、いい感じになってきたりします。
関谷
たしかに。蒸留したてよりも、冷蔵庫とかにちょっと置いておく方がうまく馴染む感じはあります。
茂田
フローラルウォーターや蒸留水って、ヨーロッパあたりでは料理に使うことも多いですよね。カルパッチョにスプレーして最後に香りづけしたりとか。オイルは基本的に料理に使えないけど、蒸留水の場合はそういった楽しみ方もできる。
関谷
そうですね。うちではこの家庭用蒸留器を使ったワークショップを月に3回やっているんですけど、あるときから男性の参加者が増えてきたんです。なぜかと思ったら、バーテンダーをしている方が多くて。お店のカクテルをつくるときの香りを、買うんじゃなくて自分でつくりたいということで、わさびとか色んなものを蒸留していました。料理人の方も何人かいらしたと思います。あとはチョコレート職人の方も。
茂田
参加者の層は結構幅広いんですね。僕も精油の蒸留をするんですけど、群馬のみなかみ町に蒸留所があるのと、自分の実験用だとコンパクトな蒸留器とか、それこそ関谷さんにこの間入れてもらった「ロータリーエバポレーター」という真空蒸留できる機械を使ってやっています。
目的としてあるのは、化粧品原料の自給率っていうのが食と同様に大きな問題として存在していて、東南アジア圏で化粧品の需要がどんどん高まっていくと、日本に原料が回ってこなくなるんじゃないか?みたいなこともあるわけなんですよね。僕らが国内で原料を開発していくというのは、これから絶対に必要なことだと思うので、まずは手始めに、自分ができる範囲で実験的に行っている段階です。
関谷
なるほど。僕らの新しい取り組みとしては、クラフトジンをつくるための大型蒸留器をつくっているところです。ジンの蒸留自体は複雑なものじゃないんですけど、装置に理化学ガラスを多く使っている分、通常のものと違って蒸留しているところが見られるのが大きな特徴ですね。
すぐ近くにある〈深川蒸留所〉も来年オープン予定です。理化学屋ならではの装置があるので、ラボラトリースペースを設けたり、テイスティングコーナーにあるカウンターのテーブルには、理化学ガラス棒を埋め込んだりしています。そこでは試飲会やイベントを兼ねながら、理化学ガラスのことをもっと知ってもらいたいなと。
茂田
それは楽しみですね。ジンだったら樽熟成もいいなぁ(笑)。
ガラスって不導体だから、蒸留する上でも酸化作用とか還元作用っていうものが絶対にないし、植物の香りをそのまま取り出すっていう意味では、個人的には一番いい素材なんだろうなって思うんですよね。
関谷
アルコールの蒸留をするときって、例えばウイスキーとかは必ず銅じゃないですか。あれはやはり素材が銅である必要があるから?
茂田
そうですね。銅だと硫黄成分を吸着するんですよ。ステンレスに比べて酸化しやすい分、中の醸造物が酸化しにくくなるっていう犠牲酸化とか犠牲防食っていう考え方があるので。そういう理由から銅を使うことが多いんです。ただあまり時間を長くすると銅のにおいが移ってしまうので、蒸留するときにしか使えない。
関谷
素材によって、向き不向きがあるということですね。ちなみに、僕らが蒸留器やランプシェードみたいな商品をつくっているのは、理化学ガラスが熱に強いからなんですよ。耐熱でない限り、付加価値というものが生まれないから。
茂田
となると、調理器具としての可能性なども出てきそうですよね。例えば、ラップトップでの調理をするときに、中身が見えて調理ができるっていうプレゼンテーションは効果的。
関谷
ビーカーにはメモリも付いているので、日常使いするとしたら計量カップとしてもいいかなと思います。400℃ぐらいまでなら問題なく使えるので、電子レンジやオーブンであれば形が変わることなく加熱できますね。耐熱温度って絶対温度のように思われがちなんですけど、実はヒートショック(温度差)に強いことが重要なんです。「耐熱ガラス」といわれているものは、日本だと温度差120℃に耐えられるかどうか、というのが基準になってきます。
茂田
理化学機器でガラスが多く採用されているのは、中が見えて熱がかけられる唯一の素材だからですよね。
関谷
そうですね。耐熱性が一番大きいですね。あとは耐薬性。それからアロマ用に使う素材として良かった点は、ガラスはにおいが移りにくいということ。樹脂だと結構残りやすかったり、ステンレスは比較的残りにくいんですけど、中は見えないので。香りがあるものとガラスは相性がいいと思います。
関谷幸樹(写真右)
関谷理化株式会社/リカシツ株式会社
代表取締役