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関谷理化株式会社
代表 関谷幸樹
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OSAJI ディレクター
茂田正和
SPECIAL CROSS TALK
〈後編〉
ヒト・コト・モノ
from OSAJI Journal
2022.11.28
ものづくりにおいて大切なのは、やはり人とのかかわり。ビジネスを展開していくうえでの付加価値とは、どのようにして生まれていくのでしょうか。今回は前回に引き続き、理化学ガラスの新しい価値を伝える場である〈リカシツ〉の監修者であり〈関谷理化〉の3代目の関谷幸樹さんと、OSAJIディレクターであり〈日東電化工業〉の4代目でもある茂田正和による対談の後編をお届けします。
関谷理化株式会社…
理化医療用ガラスの卸業として1933年に創業し、大学や研究機関への理化学ガラス製品、ならびに機器製品の供給を行う〈関谷理化株式会社〉。自社ブランドや家庭用蒸留器の開発にも力を入れており、2015年には「理化学+インテリア」をコンセプトとしたアンテナショップ〈リカシツ〉を、2018年には〈理科室蒸留所〉をいずれも東京・清澄白河に構え、理化学ガラスの価値を幅広く提案している。
https://www.sekiyarika.com
理化学ガラス職人を元気にしたい。
〈リカシツ〉から生まれる化学反応

茂田 そもそも〈リカシツ〉の母体となる〈関谷理化株式会社〉は、どのように始まったのでしょうか。

関谷 昭和8年に僕の祖父が創業しました。当時は理化学の現場に限らず、病院に点滴用のガラスを卸したりもしていたんですが、あるときから医療現場はディスポーザブル(使い捨て)化していったので、途中から理化学ガラスに特化するようになっていきました。祖父の後を父が継いで、僕で3代目になります。

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茂田 ちなみにOSAJIの母体は〈日東電化工業〉というめっき業の会社なんですけど、僕が4代目です。売り先というのは、どんなところになるんですか?

関谷 あくまでも問屋業なので、直接のユーザーさんというよりは業者さんですね。いわゆる理化学商社。もうひとつは、理化学ガラスでものづくりをしている職人さん。

茂田 「理化学ガラス職人」という専門職ですね。

関谷 はい。理化学ガラスというものは、二次加工しやすいよう最初に1500mmのガラス管(定尺)になっているんです。そのため、普通のガラスに比べて素材のコストが高い。それをバーナーで加工しながら丸めていったり、繋いだり穴を開けたりするんですけど、用途に合わせて特殊な加工する職人さんがいるんですね。要するに我々は、製品を理化学商社さんへ、ガラス素材を職人さんへ卸すっていう二軸でやっています。

茂田 なるほど。創業が昭和8年なので、来年は90周年ですね。うちの会社は昭和35年創業なので今年で62年目になりますが、「企業寿命30年説」というのがある中で、今、2回目の30年を迎えているところで。そのタイミングで、自動車のエンジン部品から化粧品業という特殊な業態変化をしたところではあるんですけど、そういう30年ごとの節目で何か感じる部分はありますか?

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関谷 僕が家業を継いだのが2008年で、ちょうどリーマンショックのあたりなんですが、やはり商売としては底だった感じはしています。わりと景気の波を受けづらい業界なので、廃業から淘汰が進むみたいなのは遅かったんですけど。一番大きいのは少子化の影響ですね。主要な売り先が大学などの研究機関になると、生徒が減ったら先生方も当然減っていくし、機材も使わなくなると。このままではどんどん売り先が減っていくなという危機感はすごく感じていました。

茂田 そこからの〈リカシツ〉っていうのは、どういう視点から生まれたんですか。

関谷 最初のきっかけは、やっぱり職人さんを元気にしようと思ったんですね。最初にお話したとおり、職人さんは売り先でもあり仕入れ先でもあるから、職人さんが元気になって、職人になりたい若い人たち増えていくことが理想。だから最終製品は理化学じゃなくてもいいと思っていたんです。であれば、我々問屋がまず職人さんの新しい仕事をつくっていこうと。新しいオーダーが入ることで、縁の下の力持ちではなく、最終製品をつくっているというモチベーションにもなったらいいなというのもありました。

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茂田 なるほど。

関谷 そこで、一番最初につくったのが 「ジガー(※現在は廃盤)」という商品。カクテルのジガーってあるじゃないですか。その耐熱ガラスバージョンみたいなものをつくって展示会に出展しました。そのときに、理化学屋がつくっていることを認識してもらおうと思って、ディスプレイ用に理化学ガラス製品をたくさん並べていたら、お客さんたちがビーカーやフラスコに興味を持ってさわり始めたんですよね。そのとき初めて、僕らにとっては日常のものでも、一般の人にとっては非日常のものなんだなと思って。それならまずは、理化学ガラス製品に身近に触れてもらって、理化学ガラス職人という存在を知ってもらうことが重要なんじゃないかと考えたんです。そうやって取り組んだもののひとつが〈リカシツ〉ですね。

茂田 そういう意味では最近、ギャラリーショップみたいなものも含めて、コンパクトビジネスをやる人が増えていますよね。でも関谷さんの場合、母体が問屋業という量のビジネスで、〈リカシツ〉がコンパクトビジネスだとしたら、相反するじゃないですか。そこには何かいいシナジーみたいなものがあるんですか?

関谷 うちは「SEKIYA」という自社ブランドのビーカーを出しているんですが、なかなか認知されていなかったんです。それが〈リカシツ〉を始めたことによって、自社で開発した家庭用の蒸留機を紹介できるようになり、メーカーとしての認知が上がってくると、関谷理化そのものの認知も上がってきたんですね。ここはアンテナショップというかショールーム扱いなんですけど、理化学器材を使ったディスプレイの依頼もけっこう多いです。僕らは設計士やデザイナーとお客さんとの間に入って、理化学の部分についてアドバイスするみたいな。〈リカシツ〉は企画のセクションでもあるので、さまざまな取り組みが関谷理化本体に対して非常にプラスになっていくことを期待していますし、柱としては少しずつ太くなってきている実感があります。

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茂田 新しい取り組みによる職人さんとの関係性の変化とか、普段のコミュニケーションってどうされていますか?

関谷 うちでは「関谷理化協力会」というのがあって、職人さんたちと2ヶ月に1回食事をしたり、1年に1回1泊の旅行をしたり、2〜3年に1回2泊3日の旅行をするっていうのが祖父の代から僕の代までずっと続いているんですね。昔の職人さんは特に家族経営で裏方仕事が多い分、社員旅行みたいなものもなかったりするので。そこでは職人さんの高齢化を目の当たりにしているところもあるんですが、少しずつ若手も増えてきています。若い世代の職人さんは、僕らがやっていることに関してすごくポジティブなので、いい関係性はできてきているかな。そういった理化学ガラスの市場も少しずつできることを期待しています。

茂田 関谷さんがやっていることに勇気をもらえるのは、いずれもB to Bのビジネスで、研究機関の下請けとして理化学ガラスを納められていて、うちの場合は自動車メーカーの下請けとしてめっきした部品を納めているわけなんだけど、下請けビジネスをやっている会社ってどうしても値段ありきのビジネスだから、付加価値の向上っていうのは急務になってきているんですよね。そこを上手くいろいろなことに繋げて展開されているなあと。僕らとしても大きなテーマなので、そういう意味でも関谷さんの話を聞くとすごく勉強になる。

関谷 実は僕、将来的にやりたいと思っていることがあるんです。それは、理化学ガラス職人を集めた「パーク」みたいなものをつくりたいということ。職人さんは個人でやられている方が多いので、ひとつの場所に集まって仕事をすれば、当然エネルギーコストも抑えられるし、うちが素材の倉庫を併設しておけば何かとスムーズだし。理化学のガラス職人さんって、一人一人酸素ボンベを抱えながら作業しなきゃいけないので、想像以上に大変な仕事なんですよね。だから少しでも働きやすい環境になったらいいなというのもあって。それに加工場が見られるようになれば発信にもなるし、職人さんたちの働き方としてもいいんじゃないかとか。今はそんなことを考えています。

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2人の共通点である「蒸留」について、
そして、ものづくりについて…
〈PROFILE〉
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関谷幸樹(写真右)
関谷理化株式会社/リカシツ株式会社
代表取締役


昭和8年より続く、理化学卸問屋の三代目。「理化学+インテリア」を目指し、理化学ガラス職人の新たな可能性と市場開拓を目的としたアンテナショップ〈リカシツ〉の監修も務める。店舗への理化学器材の提供やアロマ業界向け家庭用蒸留器を開発するなど、日常の中に蒸留文化を広めている。


茂田正和(写真左)
OSAJI ディレクター

両親や祖父母に華道家、茶道家、俳人、音楽家を持ち、日本の文化や芸術に親しんできた。無類の料理好きとしても知られ、肌を健やかに導く栄養学も踏まえたアプローチで、料理家とのコラボレーション経験も。

〈SHOP DATA〉
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リカシツ

■住所 / 東京都江東区平野1-9-7 深田荘102
■営業時間 / 13:00 ~ 17:00
■定休日 / 月・火・水
※HP内の休日カレンダーにて最新情報を随時更新
https://www.rikashitsu.jp

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理科室蒸留所

■住所 / 東京都江東区平野1-13-12
■営業時間 / 13:00 ~ 17:00
■定休日 / 月・火・水
https://distillery.rikashitsu.jp
photo : Eri Kawamura
text : Haruka Inoue
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