化粧品や食品の世界で見かけることの多い「100%天然」や「100%ヴィーガン対応」などの表記。天然の植物成分のアレルギーリスクについて長年見つめ続けてきた化粧品開発者としては、こうした表記を安心の証と思ってしまう人がいまだ非常に多いことを憂慮しています。確かに環境問題については、コミットしなければならないリミットがあります。ただ、All or Nothingで価値を決めてしまう、ドラスティックな主義、習慣の取り入れは本当に必要なのかな?とちょっと立ち止まりたいところです。
普段は菜食で過ごしていたとしても、動物性のものを欲する日があったなら、それはその栄養素を体が求めているということ。その反応を、主義を貫くためにストイックに我慢し続けると自律神経系の不調などに繋がる可能性もあると思います。ヴィーガンやベジタリアンの方はチートデイ(好きなものを十分に摂る特例日)を定期的に儲ける方もいますが、我慢している期間にかかる強いストレスが体内の活性酸素を増やすことを考えると、決まりごとにせず自分の心身と相談して感覚的に好きなものを食べる日があっても良いように思います。人間が健やかに生きていくには、本能や感覚から上がってくる声に耳を澄ませてあげることはとても重要。そういった意味で、欧州に多いフレキシタリアン(できる範囲で菜食を取り入れるスタイル)は、感覚を大切にする人間的でロマンティックなヘルシーさを僕は感じています。
食においては、日本人は繊細な感性を持っていると思うのですが、フレグランスとなると、毎日つけることを習慣にしてしまう人、あるいは一切つけない人、という感じで0か100かで分かれる傾向がまだ強い気がします。もう少しフレキシブルに、その日の気分や体調、向かう場所のことなどを考えて「今日はつけたくない」という感覚を拾ってあげる意識はセルフケアにおいて大切です。みなさんにぜひ知っておいて欲しいと思うのは、人には何事に対しても閾値(これ以上摂ると、体になにかしらの影響が発生する量)というのがあるということ。言い換えれば、身体に備わっている浄化作用を超えない限界量、となりますが、この浄化作用の限界を体感的に捉えるバロメーターが日々の感覚です。食物や化粧品のアレルギーが起こるメカニズムにおいて閾値は重要ですし、花粉、化学物質、放射線などにおいても同様です。
僕が手がけるOSAJIは敏感肌向けの化粧品ブランドなので、美白やピーリングといったカテゴリの商品は用意していません。ただ、フレキシタリアンと同じ捉え方でいえば、肌のターンオーバーのリズムを大きく乱したり、皮膚常在菌の再生ピッチを超えない範囲であれば、そういったものをたまに取り入れても良いのではないかと思います。基本的にスキンケアは楽しんでやるもの。やみくもに「やらなきゃいけない」「やってはいけない」という考えを持たない。そういった構えのほうが肌はもちろん心にも良い作用を期待できます。
自然の中でキャンプをしよう!と出かける時、「エコなことをするために、キャンプをしに行こう」という人はそういないと思います。自然の景観の中で過ごす楽しさを味わった結果、今日はエアコンを使わなかった、地元の素材を活用できた、そうかこれはエコな過ごしかただったね、ということになりますよね。化粧品も同じで、守破離にのっとって取り入れても良いのですが、なんだか心惹かれて気分が上がるものを手にして使ってみたら、結果的にそれが肌にすごく良かった、というのは理想的です。というのも、僕は化粧品というのはエモーショナルな存在と捉えているので。修行や鍛錬のような感覚でスキンケアをしても、楽しさがないと継続が難しい。努力するならむしろ頑なになりすぎずないことに力を注いで。柔軟に“等身大の自分の欲求をすぐに反映できる努力”を日々心がけていきたいですね。
茂田正和
1978年11月生まれ / 所属団体:日本皮膚科学会所属、 日本皮膚免疫アレルギー学会、 日本化粧品技術者会所属、 日本香粧品学会所属、 こどもを紫外線から守る会主宰、 バランスケアアソシエーション主宰 / 執筆実績:リンネル(宝島社)、 大人のおしゃれ手帳(宝島社)、 momo(マイルスタッフ)、 スキンケア大学(リッチメディア)、 フレグランスジャーナル(フレグランスジャーナル社)