おさじの処方箋第14回でも肌と汗の関係について触れていますが、体にとって汗をかくという生体反応は、体温調節のために必要不可⽋な作用です。気温の上昇や体内の炎症による発熱などで発汗が起こり、汗によって体温を下げることで平熱を保つことができます。
さらに、汗は天然の化粧水のような役割をもっています。角質層にはNMF(天然保湿因子)という保湿成分があり、半分がアミノ酸で残りの半分は汗由来の尿素やミネラルで構成されています。つまり、本来人間の肌は、汗を取り込むことによって、乾燥せず健やかな状態を保つことができるのです。この、汗が肌表面に上がってくる過程で、ミネラルや尿素が血液や角質層に吸収されるプロセスを“汗の再吸収”と呼びます。
汗をかくことが、いかに肌の保湿に寄与しているかということの分かりやすい例でいうと、イランやトルコなど中東地域の人々は、日本よりもはるかに激しい乾燥地帯で生活していますが、乾燥を訴える人はほとんどいないんですよね。気温が高く暑い気候で日常的に汗をかくため、汗が角質層に吸収されて肌の潤いが保たれているのです。
日頃から汗腺をしっかり働かせていれば、汗の再吸収がスムーズに行われて水分の多いサラッとしたいい汗をかけます。このいい汗こそが、先ほど述べた天然の化粧水であり、肌を弱酸性に保ち、常在菌のバランスを整えてターンオーバーを健やかに導いてくれます。これが実は、保湿にいいだけでなく、これからの季節気になる汗のニオイ問題にも関係してくる話でもあります。
まず、汗そのものは本来無臭です。しかし、汗の質や肌の状態によって、皮脂や菌と混じり合いニオイの原因となる物質を作り出します。
汗の構成成分はミネラル、乳酸、尿素で、ニオイのもととなるのは“尿素”。正確には、尿素がウレアーゼという酵素によって分解され、アンモニアに変化することで独特の匂いを発するのです。ここで先ほどの話にもつながるのですが、汗腺の働きが活発だと、汗が肌表面に到着するまでに再吸収されるはずのミネラル分が、汗腺が鈍っているために吸収されず肌表面で留まってしまい、よりニオイ物質を作りやすい状況を生み出します
ワキガという問題もありますが、これはもうホルモンバランスなので。汗腺には、アポクリン汗腺とエクリン汗腺の2種類が存在しますが、そのうちアポクリン汗腺は、耳の裏、脇の下、股間だけに存在します。ここから出る汗は水と油の混ざったような性質で、人によってはワキガとして臭うことがあります。
汗の仕組みと役割が分かったところで、具体的なニオイ対策についてお話します。大前提として、汗腺がしっかり働き良質な汗をかけるように、食習慣・生活習慣の見直しは大切ですが、その上で必要になるのは、“いかに尿素を分解するウレアーゼの活性を抑えるか”ということです。
ウレアーゼの活性を抑えるには、一般的に銀イオンが有効とされていて、制汗スプレーに配合されていることが多いですよね。ただ金属成分なので、金属アレルギーがあったりデリケートな肌質の方の場合は肌荒れにつながってしまうこともあります。
少し話が逸れますが、アンモニアが生じることによる弊害はニオイだけでなく、肌がアルカリ性に傾くことによって常在菌のバランスが乱れて肌刺激を起こします。
弱酸性だと活性化する善玉菌“表皮ぶどう球菌”の働きが弱まることでバリア機能が弱まり、反対に弱アルカリ性だと活性化してしまう悪玉菌“黄色ぶどう球菌”が優位に。皮膚にチクチクとした刺激を感じる、これがいわゆる汗かぶれの状態です。
※よく“汗疹”と混同されますが、汗疹は毛穴が塞がってしまって、汗腺の中で汗が溜まって、汗腺以外の場所からにじみでてしまう状態を指します。
こうしたことを踏まえ、汗のニオイ対策と肌荒れを防ぐために取り入れて欲しいことは、汗をかいたらこまめに拭き取り“肌のpHバランスを整えること”です。ミスト化粧水などを使って、アルカリ性に傾きがちな肌を意識的に弱酸性に整えてあげる。肌に相性のいい成分でウレアーゼの活性を抑えられるものだとよりいいですね。
茂田正和
1978年11月生まれ / 所属団体:日本皮膚科学会所属、 日本皮膚免疫アレルギー学会、 日本化粧品技術者会所属、 日本香粧品学会所属、 こどもを紫外線から守る会主宰、 バランスケアアソシエーション主宰 / 執筆実績:リンネル(宝島社)、 大人のおしゃれ手帳(宝島社)、 momo(マイルスタッフ)、 スキンケア大学(リッチメディア)、 フレグランスジャーナル(フレグランスジャーナル社)