AYANAさん
「ビューティ」を切り口とした文章を得意とし、コラムやエッセイ、取材執筆やコピーライティングなどを幅広く手がけるほか、自身が主宰するオンラインの文章講座「EMOTIONAL WRITING METHOD」の講師も務めるAYANAさん。美容業界での経験や知識を生かしながらも、そこだけにとらわれない柔軟な視点と発想の持ち主でもある。
AYANAさん
ライターになったのは成り行きというか、目指してそうなったわけではないんです。私は元々メイクアップアーティストになりたかったんですよね。メイクアップっていうのは、顔の印象を変えることができるうえに絵画みたいな美しさがある。そこに魅力を感じていました。
私が今までで1番大きな影響を受けたアーティストは、シュウ ウエムラの創業者の植村秀という人です。モードへの考え方やメイクに対するアプローチはもちろん、1970年代当時のメイクアップブランドとしては、何もかもが創造的でした。いわゆるパンキッシュでもあるというか。メイクアップのコレクションビジュアルは今でこそ珍しくないけれど、当時はまだそういうブランドって少なかったんです。
メイクアップアーティストへの憧れを夢に化粧品会社に就職しましたが、結局は商品企画やブランドのディレクションに携わり、ずっと美容業界で働いてきました。会社員時代を経てライターとして独立したあとも、ビューティブランドのコンサルティングに携わっています。またその傍らで、友人を中心にメイクを教えたりアドバイザーとしてコスメを選んだりするようなこともありました。
OSAJIとの最初の出会いは、プレスリリースのライティングがきっかけでした。そこから新たにメイクアップのラインを立ち上げるタイミングで、ディレクションのお話をいただいて。コンセプトメイキングやアイテム決め、カラー開発、ネーミング開発、シーズンごとのヴィジュアルディレクションなどを任せていただいています。
どきりとするビジュアルと、はっとするテキスト。ミニマムでありながらも鮮烈なインパクトを与え、それらはOSAJIというブランドならではのムードを醸し出している。そんな表現を生み出すAYANAさんの頭の中は、いったいどうなっているのだろう。「らしさ」とは何か。OSAJIのメイクアップコレクションのテーマは、身近な物事や固まったイメージに対して「問い」を立てるところから始まる。
AYANAさん
OSAJIのメイクアイテムを作るときに大切にしているのは、そのものに対するイメージに縛られないというか、あまり決めすぎないということですね。色味にしてもアイテムにしても、手に取る方にとっての想像の余地を残したいと思っているんです。たとえば、アイラインというのは目を大きく見せるもの、みたいな固定概念から少し離れてみるとか。アイテムの名前もそうなんですけど、受け取った人の感性のままに感じてもらえるようなものを目指しています。
“名前のない関係”
“怖いもの知らず”
たとえば、2022 AUTUMN WINTER “名前のない関係”のビジュアルをイラストにしたことや、2022 SPRING SUMMER“怖いもの知らず”のテーマもこの延長にあります。“怖いもの知らず”のときの裏テーマは「ギャル」なんです。ひとつの象徴的なビジュアルとしてカラコンを取り入れたりはしていますが、表現の本質はマインドの部分。彼女たちの、二度と同じ輝きを見せることのない、儚さのある自信や瞬間的な強さがテーマでした。
今夏のコレクションテーマは“縁のある日”。夏ってときめくイベントが多いですよね。この季節ならではの特別なお祭りの日をイメージして、そのときの高揚感や普段とはちょっと違う自分の気持ちにフォーカスしながら言葉を選んでいます。
ネイルを「纏う」ということ
さりげなく今の気分に寄り添い、アップリフトしてくれるOSAJIのネイルカラー。色はもちろん、添えられた名前に惹かれて手に取ってしまう人も多いはず。「きっと」「それから」「楕円」「寄り道」「同じ顔」…。いつかの記憶とともに、浮かぶ情景。耳に残る日本語の美しさ。自分だけのお守りのような言葉と色で指先を彩れば、自然と気持ちも前向きに。これらのアイテムが生まれる背景について。
AYANAさん
「アップリフト ネイルカラー」がきっかけでOSAJIのことを知ってくれる人ってすごく多いんです。ネイルカラーを入り口に、スキンケアのラインがあって、敏感肌の人に向けた化粧品作りからスタートしたブランドだっていうのを知っていただくこともあったりとか。日本語の名前にしているのは、日本に根ざしているブランドであることと、使う人それぞれの思いや物語を言葉に重ねてもらえるといいなと思って。
今回のコレクションではネイルカラーが7色(限定2色/定番5色)あるんですけど、この〈41 Kiririto きりりと〉は特に自信作です。ベースがブラウンなので肌馴染みは良いものの、偏光パールが入っていたりして意外と尖った色でもあるんです。発色も良いですよ。指がすごくきれいに見えると思います。
オレンジは〈501 Hibana 火花〉で、こちらは好きなアーティストのアルバムアートワークにインスピレーションをもらいました。最終的な色に辿り着くまではなかなか苦労しましたけど、良い色になりました。普段からメイクアップビジュアルはいろいろ見るようにしていますが、K-POPはその時々の流行が色濃く反映されているので、最近はどんな感じなんだろう?ってよくチェックしています。
これは、お菓子の包み紙です。たまたま入ったカフェで目に付いて、こんな色のネイルがあったらいいなと思って。そうやってできたのが〈43 Yobigoe 呼び声〉ですね。開発しているうちに、2022年ホリデーコレクションの〈306 Dare 誰〉の逆バージョンにしたら面白いんじゃないかと思って、パールをオレンジ、ベースをグリーンにしています。こういう色を作りたいなっていうところから考えて色のサンプルとなるものを先に探すこともありますし、考え方はいつも柔軟にとらえています。ネイルカラーはだいたい4回ほど試作を重ねて展開カラーを決定することが多いですね。
「私」を楽しんでほしい
「これが好きとか、こうありたいと思う気持ちを無視しないでほしい」と話すAYANAさん。メイクに対する考え方は、似合うか似合わないかという判断軸ではなく、好きかどうか、やってみたいかで選んで良いということ。そうやって選ぶメイクで、いつもとはちょっと違う「私」、知らなかった「私」に出会えるかもしれない。
AYANAさん
メイクをするときには、自分の好みを大事にしてほしいと思っています。OSAJIのメイクアイテムは「ニュアンスカラー」。なので、比較的どんな方の唇や肌の色にも馴染みながら発色するものが多いです。パーソナルカラーなど選ぶ色にこだわりがある人はもちろんそれで良いと思いますが、そこにとらわれすぎることで好きな色を諦めてしまうのはもったいないです。そういうときはまず自由に、好きな気持ちを優先してみてもいいのかなと。
「これならやってみたい」と思えるものがひとつでも見つかったら、ぜひ自分のものにしてみてください。メイクの場合、ちょっと違うと思ったらすぐに落とせるし、いくらでもやり直せる。そのぐらい気楽に考えて良いんです。自分とのポジティブな接点を作るためのきっかけとして、メイクというものがあるといいなと思います。私ってこんな色のアイシャドウも使えるんだ、とか、こういうメイクも意外と似合うんだみたいな。自分の中にあるいろんな可能性とたくさん出会ってもらいたいです。
Text_Haruka Inoue
HP:https://ayana.tokyo/