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〈CROSS TALK〉
錦山窯 吉田太郎
enso 藤井匠
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九谷焼の窯元〈錦山窯〉に生まれ、作家としても活動する吉田太郎さん。昨年秋には初の個展を開催し、会場を訪れたOSAJIディレクター 茂田との出会いを機に、レストラン〈enso〉の1周年に向けたコラボレーションプロジェクトがスタート。そしてこの春、ヘッドシェフ 藤井匠の料理に合わせて考案された、吉田さんによるオリジナルの食器が誕生。春メニューから、オリジナル食器でのお料理の提供が始まります。ensoならではの五感で味わう食体験や、藤井シェフが考える料理と器の関係性など、陶芸家と料理人が魅せる、コラボレーションのかたちをお届けします。

〈enso〉という名の、
一期一会の食体験

まもなく1周年を迎える〈enso〉は、鎌倉・小町通りの裏路地ある、元芸者置屋をリノベーションしたOSAJI初のレストラン。今回のコラボレーションにあたり、吉田さんが初めてensoを訪れ、料理を体験した時の印象や、藤井シェフが掲げるensoの料理のコンセプトについて、それぞれに話をうかがった。

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吉田

お店に向かう時は、にぎやかな通りを抜けてから路地に入るんですけど、そのあたりからガラッと空気感が変わるんですよね。すごく静かな雰囲気で。ensoの店内も、照明は薄明るく落ち着いた空間なので、そこでは自然と料理に意識が向くんです。味だけじゃなくて、香りとかにも。料理にちゃんと集中できるから、引き込まれていくんですよね。料理の構成もですけど、空間の中での時間の流れというか、提供されるタイミングも絶妙で。

僕の中ではコース料理っていうと、背筋を伸ばして食べるもの、みたいなイメージがずっとあったんですが、ensoのコース料理は、食べ終わった時に不思議と肩の力が抜けるような、ホッとするような感覚があったんです。料理はどれもおいしくて、最後に日本茶を出してくれたのもすごく印象に残っています。

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藤井

ありがとうございます。召し上がっていただいたのは、秋の食材を使ったコース料理でしたね。ensoの料理のコンセプトは、「土地に根ざした旬の食材を使う」「香りが立つ料理」「発酵技術を取り入れる」という3本柱があります。それに付随して「どこでも手に入る食材で、ここでしか食べられない料理をつくる」というのが、自分の中にあるテーマのひとつでもあります。

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「おいしさ」とは何か。
五感で味わう、
料理と器の関係性

「その昔、料理人や美食家といわれる人と、食器をつくる陶芸家というのは、本来密接な関係性でものづくりをしていたんです。それが今は、すでにつくられている器の中から料理に合わせて選ぶのが主流です。現代において、こういったコラボレーションが実現したのは、とても価値のあることだと思っています」(OSAJIディレクター茂田)

料理人と陶芸家がタッグを組むことで生まれた、それぞれの料理を一番おいしくいただくためのテーブルウエアたち。ラインアップは、プレートやカップ、小鉢などを含む全13種類。藤井シェフが考える、道具としての機能的な面と、それだけに留まらない料理と器の関係性、おいしさを感じる理由について。

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藤井

お料理を味わう上で大事な感覚は視覚・嗅覚・味覚の順番です。まず視覚に入ってくる器には、料理の味付け以上に重要な面があると思います。人間って、何かを判断する時の情報の90%くらいを視覚から判断していて、味覚というのは0.5%ぐらいしかないんですよ。デザインのいい器だったり、料理と器が調和することにより食べる前からおいしそうと感じることができます。

次に嗅覚。脳の中で香りを感じる部分って、脳の前頭葉とか海馬に非常に近いんですけど、そこは記憶や感情を司る場所なんですね。つまり香りと記憶や感情は密接にリンクしている。だからこそ「香りが立つ料理」というのは、人の記憶にも残りやすい。視覚と嗅覚というのは、食べる前からその料理がおいしいかどうかを感じるひとつの指標になっていると思います。

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意外と最後になりましたが口に入れた時の味覚。味覚は食べた時にサクサクだったり、トロッとしていたり口の中の触覚や噛む時の咀嚼音である嗅覚と密接に関係してきます。SNS全盛の時代のためか視覚ありきだけのお料理もおいしそうに見えたり、おいしいと錯覚してしまうこともあるかもしれないけれど、味覚を満足させるお料理というのは当然ながら大事なんです。この五感全てに響く料理というのがおいしいだけじゃなくて感動する料理となると考えてます。僕が目指しているのは、「おいしくて感動する料理」。今回の食器には、香りを閉じ込めるための蓋をつけてもらったりと、感動する料理のための仕掛けを太郎さんにたくさん散りばめていただきました。

お皿のデザインだけでなく手触りや重さなどぜひみなさんに見ていただきたいですね!

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つくり手同士がつながることで
イノベーティブなものが
生まれる

創作の世界は、個人によって生み出されるものだけではない。点として存在していたつくり手たちが、なんらかの縁によってつながることで、呼応するように生まれるものもある。今回の例をみても、クリエイティブな一皿のためにさまざまな角度からのアプローチがあり、それは料理と器のつくり手たちのセッションのようでもあった。

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藤井

料理にかかわる人と会ったり、現地へ赴いて素材にふれたりすることは、僕にとってマストなんです。だからこうして太郎さんにも直接お会いして工房を見せてもらえるのは、すごくありがたいですね。どんな人がどういう思いでつくっているかというのは、自分が料理をする上でも知りたいし、大事なところなので。それに、顔が見えるお付き合いをしていると、料理する時の向き合い方というか気持ちの入り方も違いますよね。提供する時のお皿もそうですし、ensoでお出ししているパンは、友人のパン職人に焼いてもらっています。お野菜も主なものは毎朝農家さんと顔を合わせて直接買わせていただいてます。昨冬に石川県まで太郎さんの工房を訪ねて、器の生産現場を見たり、一緒に食事に行ったりしました。錦山窯の絵付けの現場も見学したり、太郎さんご家族にもてなしていただいたりと、器が生まれる現場を体感した上で、その器にお料理を盛り付ける。このことにより一皿にストーリーが生まれて。そして太郎さんの器を使い続けることで物語は続いていきます。

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今回のコラボレーションを通じて、僕たち自身が楽しくやっているっていうことが伝わったらうれしいです。太郎さんの工房を訪ねた後に、太郎さんにはこれからも遊びましょうとDMしたんです。

僕はensoで料理することを「仕事」という感覚ではやっていなくて。即興的で自由というか、素材と一緒に遊ぶような感覚。そういうわくわくする楽しさみたいなものって伝わりますよね、きっと。

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〈PROFILE〉

吉田太郎
1994年生まれ。2017年には京都精華大学芸術学部素材表現学科陶芸コース卒業し、2018 年に錦山窯入社。100年以上続く錦山窯で金を扱う洗練された九谷の技法を職人から学ぶ一方、釉薬による人の力の及ばない自然の力が醸し出す表情を日々探求している。
〈錦山窯〉
1906年創業の九谷焼を専業とする窯元。金彩を得意とし、伝統の技を継承するとともに、新しい彩色金襴手の表現を開拓している。2019年にはギャラリースペース〈嘸旦 MUTAN〉を開設。錦山窯で作陶する傍ら個人での作家活動も行う吉田太郎氏は、2022年秋に自身初の個展を開催するなど、活動の幅を広げている。
https://kinzangama.com/

藤井匠
enso Head chef
1983年東京都生まれ。大学では心理学専攻し卒業後、都内のホテルやイタリアン、フレンチで調理を学ぶ。2013年、〈INTERSECT BY LEXUS TOKYO〉開業時よりスーシェフに就任。2017年には〈WE ARE THE FARM〉グループ全店の総料理長となり、グループが持つ畑作業にも従事。2018年、〈L'Effervescence〉での研修を経て姉妹店である〈bricolage bread & co. 〉開業時よりヘッドシェフを務める。2022年4月より〈enso (エンソウ)〉ヘッドシェフ就任。
https://www.enso-osaji.net/

text:Haruka Inoue